介護業界への転職や就職を検討する際、職種の多さやそれぞれの役割の違いに戸惑うことは少なくありません。
しかし、介護の仕事は職種ごとに役割が明確であり、資格を取得することでキャリアアップできる仕組みが整っています。
本記事では、主要な職種の仕事内容、必要な資格、給与の目安、そして将来のキャリアパスについて、体系的に解説します。
自分に合った職種を見つけ、長期的なキャリアプランを描くためのガイドとしてお役立てください。
- 介護業界の全職種(直接介助、マネジメント、障害福祉など)の役割と業務内容
- 未経験から国家資格「介護福祉士」や「ケアマネジャー」を目指す具体的なルート
- 自分の適性やライフプランに合わせた職種の選び方と将来性
1.介護業界の現状と将来性:データで見る「選ぶべき理由」

介護業界は超高齢社会により需要が拡大し、介護職員数は制度開始時から約160万人増加しました。
現在は人手不足のため、未経験者も積極的に採用されており、求職者に有利な状況です。
国の「処遇改善加算」などにより給与水準や労働環境も改善が進んでおり、今後も安定した雇用と採用機会が見込まれています。
「仕事の魅力ややりがい」が職場選びのポイントになることも
公益財団法人介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査」では、介護業界(現在の職場)を選んだ理由として以下の点が挙げられています。
- 「仕事の魅力ややりがいがあるため」(32.6%)
- 「職場の人間関係がよいため」(31.4%)
これらの結果から、仕事そのものの魅力ややりがい、そして職場の人間関係が、就職先を選ぶ上で重要な要因となっていることがわかります。
参考|公益財団法人介護労働安定センター:令和5年度「介護労働実態調査」結果概要について
2.【図解】介護職種の全体像と分類マップ
介護の現場には多くの職種が存在しますが、役割ごとに大きく4つのカテゴリーに分類すると理解しやすくなります。
介護職種の4つの役割
直接介助・
生活支援職
介護職員など
計画立案・
マネジメント職
ケアマネジャーなど
専門・
技術支援職
看護師・機能訓練指導員など
障害福祉分野の
専門職
生活支援員など
- 直接介助・生活支援職
利用者の身体に触れ、生活を直接支える最前線の職種(介護職員など) - 計画立案、マネジメント職
ケアプランの作成や施設の運営管理を行う職種(ケアマネジャーなど) - 専門・技術支援職
医療やリハビリなどの専門知識でチームを支える職種(看護師、機能訓練指導員など) - 障害福祉分野の専門職
障害のある方の自立や就労を支援する職種(生活支援員など)
未経験からスタートする場合は、「直接介助・生活支援職」や「介護助手」として経験を積み、資格取得を通じて他の専門職やマネジメント職へステップアップするのが一般的なルートです。
3.利用者を直接支える「直接介助・生活支援職」

「直接介助・生活支援職」は、利用者の日常生活をもっとも近くで支える、介護サービスの要となる職種です。
1)介護職員(ケアワーカー・ヘルパー)
特別養護老人ホーム・有料老人ホームなどの施設や利用者の自宅(訪問介護)で、食事・入浴・排泄などの身体介助や、掃除・洗濯などの生活援助を行います。
働く場所によって役割が異なり、施設ではチームケアが中心です。一方で、訪問介護では利用者と1対1で向き合う時間が長くなります。
必須資格はありませんが、「介護職員初任者研修」の取得が推奨されます。

その後、実務経験を積みながら国家資格である「介護福祉士」を目指すのが確実なキャリアパスです。
2)サービス提供責任者(サ責)
主に訪問介護事業所に配置されるリーダー的な職種です。
サービス提供責任者は、ケアマネジャーが作成したプランに基づき、具体的な訪問介護計画を作成したり、「ヘルパーへの指導」や「スケジュール調整」を行ったりします。
現場の介護業務とマネジメント業務の両方を担うため、介護福祉士などの資格や実務経験が求められます。
3)介護助手・介護補助
身体介助は行わず、清掃、配膳、リネン交換(シーツ交換)、話し相手など、周辺業務を専門に行う職種です。
資格や経験がなくても始めやすく、介護の現場を知るための最初のステップとして適しています。専門職がケアに集中できるようサポートする重要な役割です。
4.ケアプランを作成・管理する「計画立案・マネジメント職」

利用者が適切なサービスを受けられるよう調整し、事業所全体を運営する役割を担います。
1)介護支援専門員(ケアマネジャー)
介護保険サービスの「設計図」であるケアプラン(居宅サービス計画書など)を作成する専門職です。
利用者や家族の相談に乗り、最適なサービスを組み合わせ、関係機関との調整を行います。
介護福祉士などの国家資格に基づく実務経験を5年以上積んだ後、試験に合格し研修を修了することで資格が得られます。現場経験を経た後のキャリアの目標となる職種の一つです。
2)生活相談員・支援相談員
特別養護老人ホームやデイサービスなどで、利用者や家族からの相談対応、入退所の手続き、地域や他機関との連携窓口を担います。
「ソーシャルワーカー」としての側面が強く、社会福祉士や精神保健福祉士の資格、または同等の経験が求められることが一般的です。
3)施設長・管理者(ホーム長)
介護施設の責任者として、職員の採用・育成、収支管理、法令遵守の徹底など、運営全般を統括します。
高いマネジメント能力が求められ、介護職やケアマネジャーとしての経験を経て就任するケースが多く見られます。
5.専門技術でQOLを高める「専門・技術支援職」

介護職員と連携し、医療やリハビリテーションの視点から利用者の生活の質(QOL)向上を支えます。
1)看護職員(看護師・准看護師)
利用者の健康管理、服薬管理、インスリン注射やたんの吸引などの医療的ケアを行います。
特に特別養護老人ホームや介護老人保健施設では、介護職員と連携しながら、医療ニーズのある利用者を支える重要な役割を果たします。
2)機能訓練指導員
理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、柔道整復師などの資格を持つ専門職です。
利用者の身体機能を維持・向上させるための機能訓練計画を作成し、リハビリテーションを実施します。デイサービスや介護老人保健施設などで配置されています。
3)福祉用具専門相談員・介護事務・運転手
その他の専門職種としては、以下のような職種があります。
- 福祉用具専門相談員
車椅子や介護ベッドなどの福祉用具を選定し、利用者に提案・指導します。 - 介護事務
介護報酬請求(レセプト)業務を中心に、窓口対応や経理を担います。 - 運転手(介護ドライバー)
デイサービスなどで利用者の送迎を安全に行います。介護職員が兼務する場合もあります。
6.障害者の自立を支える「障害福祉分野の専門職」

障害福祉分野の専門職では、高齢者介護とは異なる法律(障害者総合支援法)に基づき、障害のある方の生活や就労を支援します。
生活支援員・サービス管理責任者(サビ管)・相談支援専門員
障害福祉分野の専門職の役割
- 生活支援員
- 障害者支援施設などで、入浴・排泄・食事の介助や、創作活動・生産活動のサポートを行います。高齢者介護の「介護職員」に近い役割です。
- サービス管理責任者(サビ管)
- 個別支援計画の作成やサービスの管理を行う、障害福祉サービスのキーパーソンです。
- 相談支援専門員
- 障害のある方の相談に乗り、サービス等利用計画を作成します。
7.未経験から始める介護職のキャリアパスと資格戦略

介護業界の特徴は、実務経験と資格が連動してキャリアアップできる「階段」が明確にあることです。
キャリア開発のアプローチでは、この階段を計画的に登ることが、将来の安定と収入向上につながります。
1)資格取得が収入とキャリアに直結する仕組み
未経験からスタートする場合、以下のようなステップで専門性を高めていくのが一般的です。
未経験のキャリアステップ
- 介護職員初任者研修
基礎知識を学ぶ入門資格 - 実務者研修
より実践的な知識・技術を習得。介護福祉士受験に必須 - 介護福祉士(国家資格)
実務経験3年+実務者研修修了で受験可能

介護福祉士を取得すると国が認める専門職として評価され、給与などの処遇が大きく改善される傾向にあります。さらに経験を積むことで、リーダー職、ケアマネジャー、施設長といった上位職を目指すことも可能です。
2)未経験者が最初に目指すべきルート
これから介護の仕事を始める場合、まずは「資格取得支援制度」がある職場を選ぶことが賢明な戦略です。働きながら費用の補助を受けて資格を取得できる環境は、キャリア形成の強力な後押しとなります。
また、自分の適性に合った施設形態を選ぶことも大切です。

- しっかり稼ぎたい、チームで働きたい方:特別養護老人ホーム
- 認知症ケアを深く学びたい方:グループホーム
- 日勤中心で働きたい方:デイサービス
それぞれの特徴を理解し、ご自身のライフスタイルに合った入り口からキャリアをスタートさせてみてはいかがでしょうか。
8.自分に合った職種で、確かなキャリアの一歩を
介護業界には多種多様な職種があり、それぞれに異なる役割と魅力があります。
大切なのは、現在の希望(働き方、給与、やりがい)と、将来なりたい姿(キャリアビジョン)を照らし合わせ、最適な入り口を選ぶことです。
未経験からスタートしても、実務経験を積みながら資格を取得することで、介護福祉士やケアマネジャーといった高度な専門職へと着実にステップアップが可能。それが介護業界の大きな強みです。
まずは、気になった職種や施設の見学に行ってみる、あるいは資格取得支援制度のある求人を探してみるなど、小さなアクションから始めることをお勧めします。
